Tuesday, August 24, 2004

料理修行のUP TO DATE (15)

「ね。もう11時過ぎてるよ。」

準備万端整って、お客様をお迎えするばかりになった体育館は、ミョーな静けさが漂っていた。時計をみるとすでに始まって30分が経つというのに、お客がぜーんぜん現れない。まわりのお店の人たちも手持ち無沙汰。お隣同士で世間話なんかしてる人達もいる。

オースティンとは言え、12月の、それもひと気のない体育館は寒い。やる気満々の私はシェフコートの下は半袖Tシャツだけで、所在なく座っていると足元から寒さがじんじん襲ってくる。12時を回る頃になってようやくポツリ、ポツリと人がやって来た。が、どーみても関係者の友人って感じの人ばかり。みんな自分の知り合いのところで足を止めてしまって、なかなか私のお店の前までたどり着いてくれない。

「お腹、、、空いたね。」隣に座っている友人がポツリと用意したクラッカーを見てつぶやいた。

、、そういえばもうランチタイムだもんなぁ。

「What's going on? (調子はどう?)」

気づくと、この大邸宅の持ち主で、バザーの主催者でもあるSusan が立っていた。知り合いも少ない私たちのブースは閑散とした体育館の中でも、際立って閑古鳥が鳴いているように見えたのだろう。

「ね。試食してもいい?」

「は、はい。どうぞ。」

まずはディップをクラッカーに乗せて一口。

「それは?」

「これは野菜やきのこ、チキンを炊き込んだライスです。」

後ろの炊飯器から温かい御飯をよそって差し出す。

「あ、デザートもいいな。これティラミスでしょ?」と、こちらもご賞味。旺盛な食欲である。

「あーおいしかった。ごちそうさま♪ (にっこり)」

あ、あれ? お腹空いてただけだったの? と私が思ったその時だった。

くるりと踵を返すと、体育館のど真ん中に立った彼女。

「みなさーん。今日は来て頂いて本当にありがとうございます。実はね。そこのブースにシェフが作ったお料理が試食できるコーナーがあるんです。ちょっと感動的おいしさよ。ぜひお立ち寄り下さいね。」

買い物やおしゃべりに興じていた体育館中の人の注意が私に集まり、そして三々五々と彼らがこちらに向かってくる。

「Good luck!」

Susanがティラミスのクリームを唇の端につけたまま、後ろの方で私にむかってウインクしたのが見えた。

Grazie Mille (ありがとう) Susan !! (続く)

Thursday, August 19, 2004

料理修行のUP TO DATE (14)

と、我に返ってふとまわりを見渡すと、あらら。もうすでに場所を確保して品物を並べる人もちらほら。で、その横で行われている陣取り合戦。こっちも白熱中!って私も参戦せねば!

言葉を差し挟む間も無い位にまくしたてるおば様を囲んで、まだ場所が決まらない数名。「公平に」だの「順序良く」なんて単語が聞えてくる。古今東西、場所を問わず、このテの仕切りたがりやっているものです。はい。(^^)

輪の一番後ろで聞いている「フリ」だけしているのがミエミエの友達。。が、こっちにむかって何か言ってる。何ナニ?

『こっちはいいから、早く場所とって。』

あは。こういうとき日本語は便利だわ♪ 他の人にはぜーったいにわからないものね。(^_^)v

連携プレーが功を奏して、入って右側の中央、まずまずのところに場所確保成功!壁際に立て掛けてあるテーブルを組み立て、さっさとクロスをかけて、はい!お店屋さんごっこのはじまり♪である。

ちなみに私が今日のために用意したのはこんなものです。
・豆腐とアボガドのディップ
・ドライトマトとクリームチーズのディップ
・五目炊き込みご飯
・ティラミス

ディップ2種は、大きめの平皿にクラッカーを添えて。御飯は見本用に小さなカップに入ったものだけをディスプレイし、興味をもってくれた人には温かいものをサーブできるよう、炊飯器ごと後ろのテーブルにスタンバイ。ティラミスはケーキスタンドに載せて、埃がかぶらないようガラスカバーをかけた。紙皿、使い捨てのスプーン、紙ナプキンを並べ、その横のスペースにビジネスカードと、レターサイズに印刷されたフライヤー。これには、大まかな仕事内容、サンプルメニュー数種と自分の略歴、連絡先などの情報が盛り込まれている。

作戦としては、まず、料理につられて足を止めたお客様に、気に入ったものをテイスティングしてもらう。で、食していらっしゃる間に、ささっとフライヤーを手渡しして、

「ご自宅でのパーティや、お友達へのクリスマスプレゼントにパーソナルシェフの出張サービスはいかがでしょう?」

なーんてトークをさりげなくかまし、こういった料理の他にも、こんな料理やら、あんな料理もできまっせー。と自己PR。今ならお二人で80ドルのGIFT CERTIFICATEが10% OFFです!と畳み掛けてその気になってもらう。というもの。

希望的予想では、3枚、いや2枚でいい。売れてくれたらGOOD JOB! なんだけどなぁ。

かくして戦いの幕は切って落とされたのであーる! (続く)

Monday, August 02, 2004

料理修行のUP TO DATE (13)

「ね。ところで『名前』は何にしたの?」

いよいよ明日が当日。という日、最終打ち合わせをしていたKimが思い出したように尋ねた。

ぐふ。よくぞ聞いてくれましたっ! 実はね。こんな話が舞い込む、もっとずっと前から心の中で温めてあったんだ♪

『BUON APPETITO』(ヴォン・アペティト)

『いただきます!』、そして『どうぞ召し上がれ!』を意味するイタリア語。この言葉の響きがずっと前から大好きだった。

今まで想像すらしたことがなかったけれど、そしてたったひとりではあるけれど、これはまぎれもなく『私の』『生まれて初めての』ビジネスである。古い大きなイタリアのキッチンで、ことことと煮えるスープの匂いがするような、優しくて温かいぬくもり。私にとってBuon Appetito は、そんな特別な言葉なのである。

「Sounds good! (いいね!)」

Kim達の賛同を得て、フライヤーや、ビジネスカードにも『BUON APPETITO』の名前を入れることにした。

そして迎えた当日。

午前11時開始に備え、9時少し前に会場となる方の自宅へ伺う。個人宅とは言え、お蝶婦人宅並(?)の門構え、ポーチの中央では噴水が水しぶきを上げ、石畳の車寄せ、その奥にどーんと構える邸内は、中庭のプールをぐるっと囲むように左右全面ガラス張りの扇形に広がっている。我が家の5倍はあるキッチンには作りつけの冷蔵庫、オーブンに電子レンジ。憧れのアイランド(調理をするための独立した作業場)もダブルベット並の広さ。その奥の薄暗い照明の下にはにはワインセラーとバーカウンター。独立したパントレー(食品庫)はおそらく4畳半以上とみた。

あぁ。私にとっては垂涎ものの台所。こんなところで料理したらどんなにか快適で楽しかろう。と思うんだけど、こういうところのマダムは、あまり料理好きな人がいない。ってのも実は定説。

さて。私たち出展者が出店を並べるところは、家族用のダイニングを抜け、プレイルーム(ビリヤードやダーツが置いてある部屋)を抜けたその奥の、な、なんと「体育館」なのであった。

個人宅に、フルサイズのバスケットコート。。参りました。

ううっ。体育館の匂いだ。一瞬本来の目的を忘れ、足元に落ちていたボールを手に取り、中学時代の甘い切ないノスタルジーにタイムスリップする私。その横で、一緒に出店予定の友人は、すでに始まっている場所取り合戦に果敢に参戦していったのであった。

ま、待ってぇ。(続く)

Friday, July 09, 2004

料理修行のUP TO DATE (12)

そう。私はひらめいちゃったのだった♪ 「

わかった。料理はひきうける。そのかわりと言っちゃ何だけど、、」

オードブルで、お客さまに軽く腹ごしらえをしてもらい、思いっきりお買い物していただく。という主旨に相乗りしてですね。ついでにその料理で彼らの胃袋も「ぐぐっ!」っと掴んで、作った人(私です)も一緒に宣伝をしちゃう。っていうアイデア。ね、ね。どうかな?

『シェフ付き・お料理 GIFT CERTIFICATE』でパーソナルシェフとしてのデビュー!と思いついたわけである♪

GIFT CERTIFICATE。日本語に訳すと『商品券』? うーん。ちょっと違う。要は、「シェフ付きパーティ」のギフト券。買った人が自分の家でパーティをやりたい時に使ってもいいし、プレゼントとしてもなかなかいいんじゃないだろうか。

Kimが快くOKしてくれたので、早速準備に入る。当日出すメニュー。これは立食で、午後の小腹の空く時間帯ということも考え合わせ、Finger Food と呼ばれるお皿やフォークがなくても食べられるものに限定される。食べることが目的ではなく、ここでおいしいものを食べよう。なんていう期待度も限りなくゼロの近い人達の注意をひきつけるためにはありきたり、おきまりではだめだ。でもだからといって奇をてらいすぎない、いつもとは一味違った何か、『小さなサプライズ』があれば、作った人に関心を持ってもらえる。それが、GIFT CERTIFICATE に結びつけば、、、頭の中でどんどん夢が具体的な形になって膨らみ始めた。

肝心の GIFT CERTIFICATE についても決めることは盛りだくさんだった。サービス内容、価格の設定、メニューの構成とフレキシビリティ。利益率はどれくらいなのか、守らなくてはならないベースラインはどこか、プラスα「らしさ」をどうやって伝えばいいか。同業者のサイトからヒントをもらいながら、Kimや応援してくれる友達と相談しながら、過不足なく必要な情報を盛り込んだFlyerと呼ばれる一枚のチラシを作った。GIFT CERTIFICATE 用の紙を選び、デザインを決め、印刷する。パーソナルシェフの横に自分の名前を入れたビジネスカードも作った。

いよいよ始動!である。

Tuesday, June 29, 2004

料理修行のUP TO DATE (11)

パーソナルシェフになりたい!

と思ったとこまではよかったが、いったいどうすりゃいいのか。という具体的な方法については皆目わからない。ま、こっちに来てから、何度かパーティも主催したし、知り合いや友達のパーティには数知れず参加しているんだけど、パーソナルシェフがいた事って、、、あったっけ?

そんな時。間もなく12月になろうとするある日のことだった。恒例のバザーのお誘いのカードが送られてきた。これは友人のひとりが、何人かの友人とグループで、毎年行っているチャリティバザーで、メンバーの誰かの家を会場にして、出展者を募り、その収益の一部が地域の恵まれない子供たちや、その家族に寄付されるイベント。手作りのジュエリーとか、キルティングのブランケット、季節柄、クリスマスツリーのオーナメントなんかもある。アメリカでは個人レベルでのこういったチャリティバザーなるものがこの季節非常に多い。私も去年初めて参加し、ハーブの手作り石鹸とバスソルトを買ったのだった。

ふーん。今年はどうしようかなぁ。と返事をしないまま、2、3日が過ぎた頃、主催者のひとりであるKim から電話があった。

「ごめん。返事してなくて。」と謝る私の言葉を最後まで聞かず、Kimは畳み込むようにこう言ったのだった。

「料理作ってもらうことにしたから」

「へ?」

この友人、普段からせっかちでいつも足が(漫画的に言うと)くるくる回っているような忙しい人なんだけど、この時もやっぱり前後の話なし。単刀直入でいきなり結論。聞いてる私は???。の状態なのだった。

アクセルぶっちぎりで爆走しようとするKim の話の腰を折り、とにかく聞いてみたところによれば、そのバザーにやってきてくれるお客さんたちがつまめるスナックを用意しなくちゃいけないんだけど、毎年チップスとかクラッカーとか買ってきたもので間に合わせちゃってて、ちょっとつまんない。で、料理学校出たSienaで見習いやってる友達がいるよ(私のことです)!って話になって、で、そりゃいい!ぜひ彼女に(私のことです)お願いしましょー。という話になって。

「あ、もう引き受けてきちゃったのよ。だめだった?」

途中から突っ込みなしで黙?って聞いてる私の沈黙にようやく気づいたのか、Kim ったらやっと疑問符のついた文章を投げかけてくれた。

「いや、ダメじゃないんだけど。」 と、私。

ダメじゃないけど。

そう。私はひらめいちゃったのだった♪ (^_^)v

Tuesday, June 22, 2004

料理修行のUP TO DATE (10)

ひとくちに料理人と言っても、その腕を発揮する場はさまざま。 レストランで働いている人だけがシェフじゃございません。

たとえば。

Food Writer - 雑誌や新聞に食に関する記事を書く人。
Event Planner - Food Show や Trade Show のイベント企画。
Public Relations -シェフや話題の食べ物を発掘し、主にメディアを通してその認知度を浸透させる仕事。

この他にも、 Non-Profit organizations, Chef Instructor, Restaurant consulting, Product Development, Catering...などなど。

食あるところにシェフあり。なのである。

で、私がやりたかったことは。

『Personal Chef』またの名を『Private Chef』という名前を聞いたことがあるだろうか。厳密にはこの2つにはそれぞれの細かい定義があるみたいなんだが、要はお客さんのシチュエーションに合わせた料理を、お客さんの家のキッチンで調理し、サーブする仕事。家族のバースディだったり、結婚記念日だったり、あるいは友達を招待してのパーティだったり。

ちなみにこれが英語で書かれたパーソナルシェフのお仕事。

Private Chefs work for families and private clients to create and produce menus to their specifications. This field requires knowledge of sourcing, storage and food safety. A culinary education is essential to understand products, meet and understand dietary resrictions, creative menu development and the discipline that goes with putting it all together.

日本での認知度は今ひとつのようだが、アメリカ人は大のつくパーティ好き。おうちでカジュアルに、家族や気心のしれた仲間とのんびり楽しみたい。だけど、お料理の準備やサービングに煩わされたくない。あるいはマンネリのパーティメニューから抜け出して、ちょっぴり本格的な料理を楽しみたい。このテのニーズにぴたりとはまったのがパーソナルシェフ。という訳。

パーティの内容や、出席者の好みや食餌制限を考慮し、予算とにらみあわせながらメニューを決める作業から始まって、買出し、下準備、当日の調理、サービング、片付けまでの一切を取り仕切る。自分の作った料理を味わうお客さんの『おいしい顔』を一番近くで見たい!この願いを叶えてくれる仕事は、これをおいて他にない!

さて、どうやったらパーソナルにシェフになれるんだ?? (続く)

Friday, June 11, 2004

料理修行のUP TO DATE (9)

リストランテ「Siena」で規定時間を終え、無事卒業の運びとなった。オーナシェフのHerveyから、ここで仕事を続けてみないか。というオファーをもらったことはすごくうれしかったし、Phillをはじめ、お世話になった厨房の人たちとお別れするのはつらかった。

けど、やってみたいことがあった。

学校で、イタリアで、そしてレストランの厨房で「食」に携わるたくさんのプロを見てきた。彼らから知識を学び、技術を盗み、そして何よりその『心』を教わった。そして、一緒に学ぶ仲間たちからもたくさんの刺激を受けて、改めて気づいたことがある。

私は、おいしいものを食べたときの人の笑顔が好きだ。

こんなふうに書いてしまうといかにも小難しいのだけれど、全く違う食文化を持つこの国の人達に、日本というバックグランドを持ち、かつイタリア料理を深く敬愛する自分の作る味はプロの料理として通用するのか。つまり対価を払っても食べたいと思ってもらえるのだろうか。ということだ。

相手の好みに媚びず、自分の作り出す味にこだわりとプライドを持ちながらも、固執しない、、、あぁコムズカシイ。要は『おいしい♪』笑顔と空っぽになったお皿を見たい。のだ。

名の通ったレストランやホテルの厨房で、一流のシェフたちと一緒に仕事ができることはもちろん大きな魅力だし、勉強にもなる。肩書きとしても申し分ない。けれど、私がめざす料理人の姿は、作り手と食べる人の顔が見える距離で仕事をすること。つまり、その季節の旬の野菜や魚、安心できる食材を自分の手で選び、相手の好みを考えながらメニューを組み立て、おいしい幸せな顔を想像しながら料理ができること。

そんなことを考えていた矢先のこと、夢への実現へむけてのチャンスは案外と早くやってきたのだった。(続く)